読書レビュー『君の名はオルガ 父からダウン症の娘への手紙』スペインから世界中に発信された、父親からの愛の手紙17通からなるベストセラー
ダウン症の息子Uが産まれてから約2年間でダウン症関連の書籍を50冊以上読んだ僕が、
その一つ一つを紹介していく読書レビューコーナー!今回はコレ!!
ダウン症の娘·オルガに向けた父親からの愛情の手紙17通からなる、スペインから世界中に広まった感動のベストセラーです。
「君の名はオルガ 父からダウン症の娘への手紙」ジュゼップ·マリア·アスピナス 著/田澤耕 訳/春秋社(1992)
この本は1986年にスペインで出版されて多くの共感を呼び、ヨーロッパ中で感動をよんでベストセラーとなり、その本が日本語に訳されて1992年に出版されたそうな。
すごく詩的で、哲学的で、好みが分かれるかもだけど、大切なメッセージが詰まっていた
目次はこんな感じ。
ダウン症のことを度々「蒙古症」と表現していたり、
知的障害のことを今では死語となった「知恵おくれ」と表現していたり、
時代の違いを感じる部分も多々あったけど、父から娘に向けられた溢れんばかりの愛情もひしひしと伝わってきて、ダウン症をはじめとする障がいを持った子とその親のみならず、全ての人々に対して大切なメッセージを発信してくれているような気がする本です。
すごくそれぞれの手紙の言い回しが詩的というか、哲学的というかで、
何だか中学生の頃にサンテグ·ジュペリの「星の王子さま」を読んだときのような感覚や、
大学生の時にルソーの「エミール」を読んだときの感覚に似ているような、
すごくよくわかりそうで、それでいて実はスッキリわかりきるわけでもなく、
でも何だかほんわかして、共感して、とても大切なことに気づいた気がするような…
そんな不思議な一冊でした。
著者が日本語訳版のために書いた冒頭文章も!
ちなみにこの本の冒頭で著者が付け加えている「日本の読者のみなさんへ」という文章によれば、
この本はバルセロナでは小学校から大学の哲学にいたる様々な学校で副読本として使われているのだとか。
そして著者からの日本のみなさんへのメッセージを一部抜粋するとこんな感じ。
こうしてオルガに関するわたしの証言は、様々な木々の葉っぱの間を吹き抜けるそよ風のように広がっていきました。そして今、みなさんのところに届こうとしています。みなさんが、このそよ風を外国の風ではなく、みなさん自身の人生を吹き抜けるそよ風だと感じていただければよいのですが。
この本に書かれていることは、距離の遠い近いにかかわらず、みなさんにとっても身近なことだと思います。なぜならば、わたしの娘オルガのようなケースはどこにでもあることだからです。それはちょうど、こちらの空にもみなさんの空にも同じ雲が流れ、こちらの詩人もそちらの詩人も、例え表現する言葉は違っても、同じ月に恋をする、といったことと同じようなものです。
そうそうこんな言い回し、終始このような感じなのです。
ああ、こういうの私好きだなあ…という人はぜひ読んでみてください!面白いと思います!!
個人的に印象に残った言葉とメッセージ
そんな本書の中でも、僕が印象に残った手紙の一部を抜粋して紹介します。
オルガ、君のような子どもたちは何千といる。でも統計によれば君たちは少数派だそうだ。たしかにそうだろう。しかし、それがまったく正しいというわけでもない。なぜなら、本当はわれわれみんなが少数派だからだ。
(中略)
君が「少数派」だということを認めることはたやすい。なぜなら君特有の欠点は客観的に分析することができるからだ。しかし、ぼくは君がいるおかげでそこからもう一歩踏み出すことが──もう少し深く考えることが──できるようになった。つまりわれわれはみな、ほかの人と比べてなにかしら「特有のもの」をもっているということがわかるようになったんだ。そして自分には他の人と比べて欠けている部分があるし、他の人にも僕と比べて欠けている部分があるということがわかるようになった。
(中略)
それに君は、ぼくが自分の欠点とも共存できるようにしてくれた。自分の欠点にあまりこだわらずに生きることができるようになった。道徳にうるさい人ならどういうかわからないが、ぼくにはこれが健全な生き方のように思える。
少数派とは、障がいとは、欠点とは、特有なものとは…
誰しもが考え方によっては、少数派かもしれないし、欠点は持っているし、特有だ…
僕も以前からふと考えることがあったけど、Uくんが産まれてからもっと考えるようになったことかも。
人は、君には多くの限界があるという。たしかにそうだ。しかし、同時に君は決して枯れることのない知恵の泉だ。オルガ、君はぼくの心を大きくしてくれた。十分とはいえぬまでも、いくらかの無償の行為─恩やお返しとは無縁の行為─をするゆとりを創り出してくれた。
僕もUくんと一緒に毎日を過ごしていて、共感する想い。
たしかに君の知能には欠陥があるが、そのことと君の愛情がこまやかなこと、誰にでも手を貸してあげられること、喜びを感じることができることは別なんだ。ぼくは君よりも発達した知能を持っている。しかし君よりも「人間的」かといわれると自信はない。いずれにしても、もしぼくの中にも少しでも純粋で優しいところや、平和的で他人のことをまず考える態度があるとしたら、それは大部分君のおかげなんだ。
(中略)
君とぼくがお互い愛しあってきたおかけだ。お互いに教えあってきたおかげだ──そうさ、君だってぼくに教えてくれているんだ。
うん、この辺が、すごく僕の心に染みた言葉・メッセージかな。
僕が君に教えたことよりも、君が僕に教えてくれたことの方がたくさんある
そう、ダウン症の息子・Uくんの育児・子育てを通して、
これはUくんのためになりそうだぞ!こんなことを教えてあげなきゃ!なんて何かを教えてあげようとしてあくせくしている自分がいるけど、
Uくんに僕が教えていることよりも、Uくんに僕が、僕らが教わったことの方が実はたくさんある気がするよね。
そしてそれはこの先もきっと、ずっとそう!
これはまるで僕が大学二年生の時に初めてカンボジアという地に行って、学生ボランティアという立場で一ヶ月間過ごして、
カンボジアの子ども達のために自分ができることをたくさんしてあげたい!と思って意気込んでたけど、実は帰ってみて振り返ったら、僕がしてあげられたほんの少しのことなんかよりも、その後の人生が変わったと言えるほどの大切なものを、僕の方がたくさん教えられていたことに気付いた時…
なんだか、あの時の感覚に似ている。
この本を読んで、大切な日にUくんに手紙を書くことを決意し、実行するようになった
そしてこの本を読んだ当時、僕もUくんに向けて、こうした手紙でも書いてみようかなあと決意。
当時は、娘には誕生日や、伝えたい大切なことがある時など、年に数回手紙を書いて渡すこともあったけど、
Uくんにはまだ産まれてすぐに名前をつけた時に、その名前にこめた想いを手紙に書き記したことがあったくらいで、
ダウン症の息子が産まれて5日後のこと~君は僕の、僕ら家族の夢だ!名前の由来と、初めてUくんに書いた手紙(2018年6月12日)
まだ読めないし、理解できないだろうからって、その後は一度も書いたことがなかったのだけど。
読めないだろうとか理解できないだろうとかってのは関係なしに、
こうやって息子に対して思ったことを手紙という形で書き記しておくのも、きっと悪くないかもしれないなあ。
よし!まずはこれから毎年誕生日には息子にも必ずお手紙を書こう!そう決意し、
さらに、毎年クリスマスは妻と僕が入籍して夫婦になった日=僕が娘のパパになった日でもあるので、
初心忘れるべからずで、いつもその家族になった記念日に妻と娘に手紙を書いて渡していたけど、
自ずとUくんにも書いて渡そう!となり、
各々の誕生日と、家族の特別な記念日である クリスマスの日には
家族みんなに直筆の手紙を贈るようになったのだ。
ちなみにこの前のクリスマスの時のUくんへの手紙はこんな感じ。
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この恒例行事?のきっかけをくれたのがまさにこの本!いいきっかけをくれた、この本に感謝!!
1980年代にこの本が出版された意義に思いを馳せる…
それにしてもその当時の社会のことを考えると、
それが特別なことじゃない、当然かのように振る舞い、
世間にも大切なメッセージとして発信する。こんな人がいたなんて…
当時のヨーロッパの社会が先鋭的だったのか、
この著者の感覚や生き方が先鋭的でだからこそベストセラーとなって
数年遅れで日本にも渡ってきたのか…
でもこの当時の日本だったら、どう捉えられどう受け止められたのか…
ヨーロッパのようにはなってなかったのかもしれないなあと思ったり。
そうは言ってもこうした人がいて発信してくれたからこそ、
少しずつ社会が、世界が変わってきて、今の社会が、世界が、あるのかもしれないなあと、
漠然とこれまた哲学的に?詩的に?思ったのでした。
何だかもしかしたら、詩的で小難しくも読める文章が、好き嫌いを分ける部分もあるかもしれないけれど、僕はとても面白く読みました!おススメです!!
今後もいろんなダウン症関連の書籍を紹介していきます!
こんな感じで、今後も色んなダウン症関連の本を不定期的に紹介していきますね~~!
詳しくはロードマップを作ってみたのでぜひご参照ください!
なんせ、ネタはすでに50冊以上分ありますからね…(笑)
ちなみにロードマップに載っていない本はまだ読んでいないので、
もしおススメの本などあったら、逆に教えて下さ~い!よろしくお願いします!!
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